学校・職場での「いじめ」に対処する考え方

前回『学校や職場に共通する「いじめ」の背景構造』のアップ後にも、新たないじめ暴行動画がSNSで拡散されたり、いじめ加害者の逮捕や子ども家庭庁がSNSでのいじめ動画の削除を要請したりと、いろいろな動きがありました。
前回は学校と職場で共通する「いじめ」(今回も職場でのパワハラ・セクハラ等もいじめとして定義します)がなくならない背景構造を説明し、学校や職場においての「いじめ」行為に対し、現状では被害者が抑止力の手段をほとんど持っておらず、即効性のある解決策がないことを指摘しました。
現在、学校でのいじめ加害者の個人情報がSNSで拡散され続けるのも、被害者の権利が一方的に侵害され、やられ損になっている現状への強い批判だと思います。学校、教育委員会、文科省が、今まで「いじめ」問題に真摯に向き合おうとせず、きちんと対処してこなかった結果と言えます。
「いじめ」で泣き寝入りする人が多い本当の理由
職場のパワハラ・セクハラ、また「いじめ防止対策推進法」で規定される定義や認定条件、過去の事例から判断すると、被害者の立場で考えたとき、次の「3つの壁」の存在が浮かび上がってきます。
この「3つの壁」の存在が、職場でのパワハラ・セクハラや、学校でのいじめにより心身に深刻なダメージを受けても泣き寝入りする人が多い理由です。
1.加害者の行為による苦痛や損害を立証する責任は被害者側にある
職場でのパワハラ・セクハラも学校のいじめも、そうした行為を行えば刑事罰を含めた罰則が自動的に加害者に加えられるというものではないです。
パワハラやいじめで相手に暴力をふるってケガをさせたなら傷害罪に問われたり、セクハラなら不同意性交罪に問われるケースもありますが、そうした被害を受けても刑事告発を含めた立証責任や、加害者への損害賠償請求などは被害者側の主体的な行動次第となります。
2.いじめ被害者 VS 組織の対立構造になる
職場でのパワハラ・セクハラも学校のいじめも、多くの場合、被害者の主な相手は加害者自身ではなく「組織」です。職場なら会社組織、学校なら学校組織や教育委員会などでしょうか。この場合、圧倒的に強いのは組織です。組織というのは不祥事が起こると、自分たちの利益を守ることを最優先に考えます。
よって不祥事を隠ぺい・誤魔化したりするのも簡単です。また組織の利益を守るため加害者責任を追及せずあえて放置するということも起こります。つまり被害者にとっては「組織の論理」を崩す必要があります。
3.被害者側の主体的な行動が必要
職場でも学校でも、パワハラ・セクハラを含むいじめに対処するには、被害者側が、ある程度の覚悟を決めて主体的に行動することが必要です。この行動はいじめが完全に解決するまで継続しなければならず、心理的に大きな負担になります。
また加害者に損害賠償請求等を行う場合は弁護士費用等の負担も生じます。ましてや生徒間のいじめ事案で、被害者である児童・生徒に立証責任や主体的な行動を求めるのは困難で、保護者が代理でやるにも負担が大きいです。
これら「3つの壁」により、いじめ被害者の多くは、そこから 「逃げる」(職場なら被害者が退職する、学校なら被害者が転校する等)ことを選ばざるを得なくなります。
今まで加害者への責任追及が放置されてきたのもこうした背景があるからです。これを繰り返すかぎり職場や学校でいじめがなくなることはないです。
職場や学校での「いじめ」をなくすために大切なことは、パワハラ・セクハラを含む「いじめ」を受けた被害者が主体性をもって「闘う」ことを決意するかどうかにかかってきます。
もちろん当労組の考えは「闘う」ほうです。そして闘うと決めたなら「どうやって闘うのか」が重要になります。
闘うために必要な5つの考え
eisuユニオンは労働組合なので学校のいじめ事案に関わったことは皆無ですが、職場のパワハラ・セクハラ事案は周知しています。5年ほど前にeisu社内で起きたパワハラ事案を解決したこともあります。
そこから言えることは、学校のいじめ事案でも、闘い方は職場でのパワハラ・セクハラ事案と共通することです。職場や学校での「いじめ」(パワハラ・セクハラも含む)を抑止し有利に闘うために必要なことは、次の5つです。
1.「組織」と同じ土俵で闘わない
職場のパワハラ・セクハラも学校のいじめも、被害者が闘う相手は加害者を含む「組織」(会社や学校・教育委員会など)になります。個人 対 組織では圧倒的に強いのは組織です。
したがって組織内だけで解決を図ることは「相手の土俵」で闘うことになり、被害者にはかなり不利です。そこで「いじめ」事案を相手の組織から切り離すことが必要です。必要なのは次の2つです。
2.外部の、被害者側に立つ組織(人)を味方にする
有利に闘うためには、相手組織(会社や学校・教育委員会など)とは直接利害関係にない、被害者側に立つ組織(人)を味方につけることが必要です。職場のパワハラ・セクハラならユニオン(一般労働組合)か労働者側弁護士、学校のいじめでは弁護士や外部の支援組織、世論などです。
なお職場の相談窓口・社内労組などは味方にならないと認識しておいたほうが良いですが、これは学校のいじめ事案でも同様です。
また加害者により傷害を受けたり、金銭等を奪われたりした場合、警察に被害届を出し加害者を刑事告発することや、軽微な場合でも警察に相談することも必要です。警察に何度か相談すれば記録に残るので有力な状況証拠になります。
3.情報を外部発信する手段を持つ
会社でも学校でも「組織」が最も嫌うのが、不祥事が外部に漏れ、不特定多数に認知されることです。組織が不祥事を隠ぺいし組織内での解決を図ろうとする理由は、外部に情報が漏れ組織がダメージを受けるのを避けるためです。
したがって情報をリアルタイムで外部発信するツールを持つと、相手組織に対し「内と外」から追及できるし、被害者を支援する外部世論を形成することもできます。
今回のいじめ動画のSNS等による拡散はその是非が議論されていますが、すぐに学校や教育委員会・警察が動いたことは明白な事実です。拡散行為がなければ隠ぺいされた可能性が高かったでしょう。現状ではある意味、職場のパワハラ・セクハラを含むいじめ行為の抑止力にはなると思います。
職場でのパワハラ・セクハラ事案は、労働組合なら具体的な情報を外部発信(SNS等や街宣行動)することは労働組合法によって原則合法となります。学校でのいじめ事案では名誉棄損等になるリスクはありますが、弁護士や支援組織等と相談して合法的に行う方法を採るべきだと思います。
4.客観的な状況証拠を集める
闘いを有利に進めるには、「いつ」「どこで」「誰に」「何を」されたかという客観的な状況証拠が絶対必要です。客観的証拠とは、だれが見てもその行為が行われたことが明確にわかるものです。証拠があれば、いじめの事実を立証しやすくなります。したがって証拠をしっかりと時系列に沿って記録に残すことが大切です。
状況証拠は文書記録(メール文・スクショ・時系列にノートにまとめた記録)、録音記録、映像記録、外部機関への相談記録などです。「いじめ」でケガをした、うつやPTSDのように精神に異常をきたした場合は医師の診断書が証拠になります。また警察に相談する、被害届を出すことも状況証拠として有効です。
状況証拠で最もわかりやすいのが映像記録で、今回、SNSで拡散されたいじめ動画が、誰が見ても暴力行為がわかる記録だったことからも明白です。しかし録音記録やノートなどに時系列で書いた記録なども十分に状況証拠になるので、できるだけ多くの「状況証拠」を集めることが大切です。
5.「内と外」から組織に圧力をかける
職場や学校での「いじめ」に対抗する際、その主な相手は加害者自身ではなく、加害者を含む「組織」になります。これを読み間違えると有利な条件で勝つことはできません。労使トラブルが起こった場合、労働組合の相手は企業という組織です。相手が組織だという点では、学校でのいじめ事案も同じだと思います。
組織がいちばん恐れるのが、その組織内部のネガティブな情報が外部に漏れ、その組織が外部から糾弾されることです。したがって職場でのパワハラ・セクハラも学校のいじめでも、個人が、組織を相手に勝つには、これを上手く利用する必要があります。
組織内では組織上層部に対し改善・解決を要求しつつ、同時に加害者を刑事告発したり損害賠償請求等し、事実を外部発信すれば、その組織に「内と外」から圧力をかけられます。これらを上手に組み合わせることが、職場のパワハラ・セクハラを含む、いじめ事案を早期かつ有利に解決に導くポイントです。


